シニアの地域参加をテクノロジーで伴走する
ー ICTプラットフォーム「GBER」が描く働き方とまちの未来とは?

定年退職後、あるいはキャリアチェンジという人生の節目を向けた時、地域で何かやってみたいと思ったことはないでしょうか。
そんな時に、自分の興味関心やこれまでのキャリア、持っている資格などに合った地域の仕事や活動をおすすめしてもらえるのが、シニアと地域をつなぐICTプラットフォーム「GBER(ジーバー)」(https://gber.jp/)です。

このたび、まちづくりと人材育成に取り組む関内イノベーションイニシアティブ株式会社(横浜市中区)は、横浜市内でのGBERの展開で東京大学先端科学技術研究センターと連携協定を締結しました。GBERとはどのような仕組みなのか、GBERが普及すると私たちの働き方や私たちが住む地域はどのように変わる可能性があるのか、同センター特任教授の檜山敦氏に弊社ファウンダー兼執行役員の治田友香が聞きました。

治田:
檜山さんが開発に携わったGBERとはどのようなものですか。

檜山:
一言で言うと、退職後の就労や社会参加に伴走するアプリです。退職後にいきなり地域で何かを始めるのは難しいので、自分のことや地域のことを再発見しながら、地域にどのような団体や活動があって、どのような仕事が求められるのかを知っていただけるものです。

単なる求人サイトとは異なり、地域で過ごす足掛かりにもなるように、生涯学習の機会や地域コミュニティ活動も掲載できる、総合的なプラットフォームにしようとしています。治田:なぜ、GBERの開発に携わるようになったのですか。

檜山:
博士課程で最初に関わったのがロボット情報技術で、高齢者支援がテーマだったのです。移動・家事支援のパーソナルロボット開発に関わる中で、シニアの方々との接点が生まれました。その時に感じたのは、高齢者は弱者と言われるが、今の社会では実は若者が弱者なのではないかということでした。

私が接したシニアの方々も含めて、大半のシニアは元気です。少ない人数の若者で高齢者を支えるよりも、たくさんいるシニアのエネルギーを活かして新しい場所を生み出せるような研究開発ができたらというのがきっかけでした。

治田:

私も以前から、高齢者の社会参加には注目していました。2015年に韓国へ視察に行った時、豆腐を売っている80歳だという人に出会いました。年金が足りないから働いているという説明を受けたのですが、その人が何だかイキイキしているように見えたのです。買ってあげて支えることも含めて、どうすればそのような関係性が作れるのかとずっと考えてながら、檜山先生の研究にも注目していました。

私たちが横浜市内で就労的活動支援モデル事業「よこはまポジティブエイジング(YPA)」を始めることになり、檜山先生にご相談して2025年11月に連携協定を結ぶことができました。GBERとしては、都市型エリアでの展開も中間支援団体との連携も初めてだそうですね。

檜山:

GBERは複数の地域で展開されていますが、理念を体現しながら実装するのは難しくなりがちです。多くの地域では、掲載されているのは仕事だけ、あるいはボランティアだけになってしまう。住民目線から見ると、仕事ばかりだと求人サイトと同じになってしまいます。最初は入りやすい場所から参加して、その後本格的に始めるといった探索的なプラットフォームにしていきたいんですけれどもね。

また、運営主体として行政が頑張るのもいいのですが、民間の中間支援組織と一緒にプラットフォームを育てていきたいとも思っていました。

治田:
私たちはピッタリの存在でしたね!私たちは、横浜市青葉区でセカンドキャリア地域起業セミナーを開催していたことで横浜市からお声がけいただき、YPAを行っています。就労的活動としては企業からもNPOからも切り出したいので、それぞれの文脈を理解できることを評価されてご一緒させていただいています。

YPAはNPOとの相性はいいですね。また、企業からの切り出しもシニアの方々には好評なのですが、企業にとってはまだなかなか慣れない世界のようです。ただ、年度末の成果発表会をご覧いただくと、言葉は悪いですが高齢者イコールお荷物と思っていた認識が変わったと言ってくれた人もいました。企業やNPOと地域のシニアとの関係性を変えていきたいですね。もちろん、シニアの側の意識改革も大切です。

檜山:
シニアの社会参加について、シニアだけを対象にするとあまり参加意欲を掻き立てられないみたいですね。日本のシニアは、パートタイムで経験を活かせる仕事や住まう地域に貢献したいという意識が強いので、そのエネルギーをぜひ活かしたい。NPOの存在を知り、学び、世代を超えて活動できるものを切り出すと同時に、お互いをうまくつなげるような場づくりも大切ですね。活動リストだけ見せても、皆さん動きませんので。活動を掲載した団体との接点をつくるワークショップも含めて、GBERを運用していきたいです。

治田:
なじみのある場所で、知り合いから勧められて参加したことで自信が得られるということが大事だと思っています。手間がかかりますし、簡単にはいかないのですが。檜山先生が取り組んでいるVRリハビリ活動のように、最終的には地域に出て行くものの、その手前でまずはお互いに仲良くなるというのは大事ですね。

檜山:
VRの世界に入り込むと自発的な身体運動が引き出されるので、遊びながら運動機能や認知機能を高める体験が作れるのですね。そんなVR体験もGBERと繋げることができると思っています。写真を撮ってシェアし合ったり、動画を作るワークショップをみんなで体験したりするイベントを地域の活動として企画してみる。誰かを元気にする活動が、自分を元気にすることに繋がるかもしれません。

これがまさに貢献寿命という考え方で、東大名誉教授の秋山弘子先生が提唱しています。 「誰かと支え合ってちょっとしたことで感謝される」「社会とのつながりを持って役割を得ている」と実感しながら生きることで、健康寿命を高めることにつながるというものです。

治田:
シニアの皆さんを見ていると、関わりが深まると色々な化学反応が生まれてくることが分かります。もちろん探究心があってひとりで過ごすことが好きな人もいますが、そういう人でも自分の考えを聞いてもらえる壁打ち相手を求めています。YPAを受講した人たちからは「ここで一生の友と会えるとは思っていなかった」「社会貢献したいという思いで集まっている人たちと本音で話すことができた」という声をもらっています。

檜山:
地域での活動探しを就職活動と同じようにやってしまうと、うまくいきません。何か一つ肩書きを選ばないといけなくなってしまいます。それよりも自分の持つたくさんのラベルを切り分けていくのが良いのではないかと思っています。

治田:
これまで会社員として規律で動いてきた人たちが多いと思いますので、自分自身に軸を置き、色々とやってみることを楽しんで欲しいですね。

檜山:
その方が世の中も明るくなりそうですね。治田さんが先ほど話していたように、豆腐屋さんが大変そうだから豆腐を買って助けてあげるのも良いですが、豆腐を買いに集まる人たちが楽しそうだから行ってみよう、となるのが理想的です。

治田:
ある種のお節介をたくさんしてくれる人が増えて、もっと社会が良くなることに期待しています。

檜山:
今、日常の中で世代が分断していますよね。そうすると、物事に対する見方が自分と近い視点からだけになります。多世代が一緒に関わる場面が増えれば、例えば公園はどのような使い方ができるのかということでも気づきが得られるはずです。そのような議論をする機会もGBERに登録できる活動になり得ると思っています。

治田:
そう思いますね。人間は関係性がないと生きていけないのに、それがなくなってきているので不満が大きくなっているのではないでしょうか。劇的には変わらないかもしれませんが、日常的にNPOやボランティア活動を身近に感じてもらえたら、今ある問題が少しは和らぐ方向に進むと思っています。カリスマ的なリーダーが言うことを聞くだけでなく、自分たちでも何かやってみてもらいたいですし、最終的にはシニアが自分たちの雇用を作るような状況が5年後ぐらいに生まれることが望ましいと思っています。年間30万円でもいいから、自分たちのペースで、自分たちでできることをやってみてほしいですね。

GBERを実装するに当たっては、シニアの皆さんの手持ちのスキルと切り出した仕事や活動をいかにうまく結びつけられるか、檜山先生と対話しながら進めていきたいです。

檜山:
GBERのようなツールが入ることで、機会の平等性が高まっていくことでしょう。活動記録のデータがたくさん溜まれば、どのような活動をおすすめするかが決まってくるので、活動を探しやすくなるはずです。AI側の成長とシニアの成長によって、GBERは使いやすく、活動を見つけやすくなることでしょう。将来的には、AIが活動を勝手に見つけて参加予約までして背中を押すようなことを言ってくれるけど、行ってみたら自分と合わなかったとAIに愚痴をこぼすことも起きるかもしれませんけどね。

地域の人がふらっと立ち寄るような場所でGEBAの存在を知り、より多くの活動に参加できるようになる。そんな、リアルとオンラインの循環をつくっていきたいですね。

治田:
普通のシニアの皆さんの背中を押せるような仕事をしていきたいと思っています。 私たちのコミュニティで一生の友を見つけるもよし、一歩踏み出せば何か良いことがあるはずですから。

よこはまポジティブエイジング

「よこはまポジティブエイジング」は、シニア世代と地域の企業・団体での地域貢献活動をつなぎ合わせるプログラム。 基礎講座を受講した後、個人やグループで地域の企業・団体での活動に参加する機会をマッチングします。